インタビュー

公共と自由のあり方を考える
PUMPQUAKES

2021年1月仙台市青葉区八幡の本屋「曲線」にてインタビュー

≪PUMPQUAKES結成の成り立ち≫

宮城を拠点に、様々な活動をするメンバーが協働して表現活動をされているPUMPQUAKES(パンプクエイクス)。メンバーの皆さんはどのように知り合ったのですか?

写真家・志賀理江子さん(PUMPQUAKESメンバー)

志賀:
私は震災前(2008年)に宮城に引っ越してきたのですが、震災後にせんだいメディアテークで写真の展覧会「螺旋海岸」(https://www.liekoshiga.com/works/rasen-kaigan/)をやることになったんです。その時に、当時はメディアテークの学芸員だった清水チナツさんと出会いました。震災直後から、メディアテークには「わすれン!」(3がつ11にちをわすれないためにセンター)(https://recorder311.smt.jp/)が開設されていて、そこに当時スタッフをしていた佐藤貴宏さんや長崎由幹君もいて、みんな震災後に出会ったんです。作品の撮影には東北大の院生(当時)だった菊池聡太朗君が手伝いに来てくれていて……みたいな感じで、ゆる~く知り合いはじめたんです。

北九州生まれのチナツさんと愛知出身の私は、外から来たもの同士、周囲や教育など、ありとあらゆる分野に対して抱えている問題意識が近く、頻繁に会うようになっていきました。当時からチナツさんが、民話採訪者の小野和子さんと、小野さんが顧問を務める「みやぎ民話の会」の活動に深く関わっていて、いつか小野さんの単著を出版したいと話していました。

2018年に、チナツさんがメディアテークを退職して独立したタイミングで出版の話が具体的に動きだしました。2019年から私は、『ヒューマン・スプリング』(https://www.liekoshiga.com/works/human-spring/)というシリーズの作品制作をしていて、その撮影を介してみんなで頻繁に顔を合わせるようになったんです。時には寝食も共にしながらの制作で、その過程で、身近な事柄から社会課題の話、自由や公共についてなど、とにかくたくさん話しました。それは、震災直後の雰囲気ともどこか似ていました。そして、東北をベースにしながら震災後に感じたことや、個々の学びを持ち寄って、なにか別の揺れ(エネルギー)に変換していきたいよね、というようなことをチナツさんと由幹君と話すようになりました。それがPUMPQUAKESの最初のアイデアです。その第1弾として、まずは小野さんの本の出版に踏み切ったわけです。

小野さんの本を全国の人たちに届けたいと思った時、ZINEや手製本のような形ではなく、しっかり流通の仕組みに乗せる必要がありました。そこで、PUMPQUAKESに版元機能も持たせることにして、2019年10月末にLLP(有限責任事業組合)PUMPQUAKESを立ち上げました。そして無事、チナツさんが主体となり、小野さんの著書『あいたくて ききたくて 旅にでる』を発行するに至ります。

本が納品されてからは、みんなで集まって、小野さんの本2,000部に販売のタグをつける作業をしたり、本屋さんと共同で出版イベントを企画したりしました。全国のさまざまな本屋さんやそこに集う読者の方たちと言葉を交わしたりすることで、自分たちで作った本がどのように読まれているのかという反応がダイレクトに伝わってきました。そういう手応えと手触りを直に感じられたのが良かったと思います。

佐藤さんと菊池さんは、どのようなことがきっかけでメンバーになったのでしょうか。

佐藤:
はじめPUMPQUAKESは、チナツさん、志賀さん、長崎君の3人で立ち上げた集団でした。その後、2020年3月からチナツさんと長崎君が1年間メキシコへの調査に行くことになり、そのタイミングで、僕と菊池君も加わることになりました。

音響/ヴィジュアル/映像作家・佐藤貴宏さん(PUMPQUAKESメンバー)

志賀:
私としては、貴宏さんは映像、菊池君は建築と、それぞれ分野が違っていて助け合えているし、これまでも自分の撮影を手伝ってくれている仲間だったので、メンバーに入ってもらえれば制作チームも兼ねられる。集団で、出版、撮影などの大きい仕事も一緒にやっていけるからいいんじゃないかなと。もちろんチナツさんも由幹君も賛成してくれました。ちなみに、今はまだチナツさんと由幹君がメキシコにいるので、本の発送は菊池君と私が粛々とやっているよね(笑)。

菊池:
本がメディアに載った後、2020年の年末年始に注文が増えましたね。初版は完売し、2刷目も完売間近で、3刷も視野に入ってきています。

建築家、美術作家・菊池聡太朗さん(PUMPQUAKESメンバー)

2020年の3月7日に開催した青葉区八幡の本屋「曲線」で行われた出版記念イベントに参加しました。新型コロナウィルス感染拡大になる直前に実施できてよかったと思います。
トークイベントで、志賀さんが本の表紙のために撮影された石の話が印象的でした。石だけれど、一見おしろいをはたいた老婆の顔のようにも見える。そういうところが、本の中身とリンクしています。

志賀:
石をじっと見ていると違うものに見えてきたりするから、それを表紙にすると何か見えてくることってあるなと思って。

菊池:
志賀さんと一緒に、石巻の沿岸に石を探しに行きましたね。本のことを思い出しながら、石を集めてきて。

志賀:
その場で撮って、そのまま戻して帰ってきたよね。

≪曲線の庭プロジェクトについて≫

「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業で取り組んだ「曲線の庭プロジェクト」はどのような経緯ではじまったのでしょうか。

佐藤:
最初のきっかけは、志賀さんから「自由と公共の話をみんなでしてみたい」という提案があったんです。日本って、豊かなのにどうしてこんなに窮屈なんだろうねって。自由を考えると公共を考えることになるし、公共を考えるとそこにあるインフラを考えることになる。問題の根っこに導かれていったような感じですね。色々な話を重ねるうちに、「実際に何かをする場合、その場所ってどこがいい?」という話になり、ちょうど「曲線」店主の菅原匠子さんが共通の友達だったので、「曲線の庭がいいんじゃない?」ということで、菅原さんに相談したんです。もともと支援事業とは全く関係なく始まったことだったのですが、ちょうどいいタイミングで仙台市市民文化事業団の支援事業を知り、マッチするのかなと思い応募しました。

志賀:
公共と自由について、日本で育ってきた私達にとってはどういう事として認識しているのかをそれぞれ言い合ってみようかと提案したんです。話しているばかりだと机上の空論で終わってしまうので、実際に体を使って何かしたい。「コロナ禍だから場所は外なんじゃない?」って。

庭にしていく過程を動画で記録されています。はじめは大きなコンクリート塀があり、時間帯によっては日当たりもよくない場所で、今のように陽が差し込んでいる印象はありませんでした。庭のイメージはどのように作っていったのですか?

曲線の庭プロジェクト(2020)
制作:PUMPQUAKES 撮影:菊池聡太朗/佐藤貴宏/志賀理江子 編集:佐藤貴宏

菊池:
そもそもこの場所が、人が集まる場所にしては障害物が多くて。まずはきれいにするところからのスタートで、はじめは掃除をしました。庭にあった小屋を解体し、水が溜まって蚊の温床になっていた風呂桶の水を抜いたり、草取りをしたり……。ごみや廃材を片付けていく過程で、どんなことができるのかをいろいろ構想していった感じです。

佐藤:
壁、広場、アジール、コモンズなどのキーワードが出たよね。庭でそれらの実験をするというか。

菊池:
その過程でコンクリートの塀をテーブルにしたらいいんじゃないかとか、舞台のような場所もいいというアイディアが出てきました。本を読んだりドリンクも外で飲めたらいいなとか。コンクリートのテーブルは、垂直だった壁に水平の動きを加えるような発想で決めていきました。

本屋「曲線」の敷地内に作ったコンクリート塀をベースにしたテーブル

菊池:
実際は、やってみると無理なことが結構ありました。マンパワーも限られているし、重機も入らない。近隣の人との関係もある。

志賀:
こうしたい、って理想はたくさんあるんだけどね(笑)。

佐藤:
頻繁に来て穴を掘ったり草取りをしたりしていると、近隣の人とも顔見知りになっていく。不動産の方やオーナーさんとの所有についての話も出てきます。オーナーさんからこの場所を借りているのは曲線の菅原さんで、僕らはあくまで第三者として関わっている身なので。

志賀:
普段の私達は、美術館などの公共施設と仕事をしていることが多いので、お膳立てしてもらっているところで表現をしているんです。でも、ここは現実の問題が沢山絡んでいる場所だから、折り合いをつけていくことがその都度必要になる。それはすごく勉強になったし、自発的に活動するってこういうことだなって実感しましたね。

周りの反応は、はじめは好奇の目でしたか?

志賀:
いや、優しかったですよ。片付けをしているので(笑)。

佐藤:
オーナーさんも「善人が来た」という反応(笑)。掃除していた段階では、まだ支援事業の採択が決まっていなかった時でしたからね。

志賀:
助成を受けたからやった訳ではなく、自発的にやることが大事だと思っていましたからね。コロナ禍など、有事の時はこういう活動が弱くなる。普段自立してやっているかどうかがうんと問われるし、やりたかったんですよね。

佐藤:
でも、ほぼ土木作業だったので、資材費も含め、助成をいただいたのはとてもありがたかったですね。

志賀:
トラックが運転できる友人などに来てもらったり、コンクリートを混ぜてもらったりね。「これは産業廃棄物だから普通のところには持っていけないよ」とかも教えてもらったり。

佐藤:
当時のさまざまな自粛の風潮の中でも、感染率が低いとされる三密を避けた屋外での作業だったので、体を動かしてとても良い時間を過ごしたなと思いますね。

庭の掃除の後は、どのような作業があったのでしょうか。

佐藤:
2020年6月上旬に1回目の廃材を焼却に出して、6月中旬に支援事業の採択が内定したので、そこから構想を具現化していきました。初めに、インフラとして必要なものをみんなで考えました。まずは椅子とテーブルかなって。

志賀:
子どもが乗ったりしても壊れないようにとかね。最初は、「コンクリート塀をばつっと切ってテーブルにしたら?」とかアイディアレベルで言っていたんだけれど、想像以上に重いから、土台をかなりちゃんと作らないと危険であることがわかりましたね。コンクリートってすごい素材だよね。これって近代そのもの。高層ビルってものすごい反自然で、権力とお金が注がれていることが感じられる。建築出身の菊池君が、「建築学科の学生は図面は引くけどコンクリートは混ぜない。でもやってみたほうがいいんじゃないか」という気づきにつながったりもして(笑)。

佐藤:
ちょっと罪意識もあったよね(笑)。あれだけハードな構造物をここに作るんだ、みたいな。

≪本を軸にした広がり≫

志賀:
曲線の菅原さんは、「何をしても良いよ」と本当に快く庭を差し出してくださったんです。一方で、「ここは、本屋でありたい」という話を聞いて、その気持ちが一番大事だと思いました。お店の壁に「BUYLOCAL」と書かれたポスターが貼ってあるけれど、それをやらなければいけないと思いました。そこで、庭にフリーライブラリーを作りました。お手本は、アメリカのリトルフリーライブラリーという、どんな人でも箱の中の本を借りることができる取り組みです。
実際に現地で見た時、箱に本は数冊しか入っていないんだけれど、道路にどんと置いてあるその存在感はすごかった。「ここから自由に本を持っていっていいよ、そのうち返してね」みたいな、そういう感覚のものが街の中にあるだけでだいぶ気持ちが違う。コロナ禍で、食べ物を買いに行けない生活困窮者のための食べ物のギブボックスみたいに機能している例もあるそうです。貨幣を交わさない物々交換というか。

佐藤:
ギブアンドギブですね。

志賀:
そうそう。リトルフリーライブラリーに参加すると、世界のマップに地点が記されるんだけれど、とりあえずここではガーデンライブラリーという形にしました。リトルフリーライブラリーは、箱にどんな本を入れても良いし、新たに誰かが本を加えることもあるから本の中身は精査されない。こちらの場合は、PUMPQUAKESが実験的に本を選んで、この場所に因んだ内容の本を選んでキュレーションしています。本来であれば本を売るところである本屋でフリーライブラリーをやるのはユニークなことだと思っています。
さらに、八幡では、いろいろなお店に本箱を置き、地域の人が本を自由に読めるようにする活動「はちまんぐるぐる図書館」を行っています。このネットワークと曲線の庭のフリーライブラリーがあることによる、相乗効果で、本を循環させられる良い形が生まれるのではないかなと思っています。

今後、曲線の庭でやってみたいことはありますか?

志賀:
外で考えたりしたいな。オンライン上や会議室とは違う空間なので、考え方やアウトプットに違いが出てくると思うんですよね。そして、そこに必ず本を掛け合わせたいですね。実際に、蚊帳を張って読書会はしたよね。

菊池:
ご飯食べるとかもしたいな。

佐藤:
インフラを整備しただけなので、それをどう使うかはこれから。菅原さんと相談しながら協働したいですね。あ、植物を植えてくれた人もいるね。

志賀:
そうそう、ある日ふらっと現れて、花を植えてくれたりしていて。雨戸に汚れがついているのが気になるから拭こう、みたいな方ですね。自分の家の庭ではないんだけれど、この庭を心の領域として大切に思ってくれているんだろうなと感じます。ローカルなお店って、お客さんが自分の領域だって思ってくれるかどうかだと私は思っています。

佐藤:
隣の芝は青く見えるっていうけど、なぜよく見えるかというと所有しているものじゃないからなんだよね。誰かの庭だけど、使うことを許されている庭。そこにある意味自由を感じる。子どもの頃、親が留守の友達の家に遊びにいくと自由を感じたりしましたよね。そういう感覚に近いのかな。菅原さんが借りているお店の庭で、僕らは第三者として使うことを許されている。それってとても豊かな関係性だなと思いますね。

仙台において、それぞれのお仕事で感じていることを教えてください。

志賀:
仙台は良いお店がいっぱいあって、友達も沢山住んでいる場所。私自身、宮城に来るきっかけが、せんだいメディアテークでの展覧会の仕事に呼ばれたことで、その時の人の繋がりは後々に大きく影響しました。県外から仙台に来ているので、余計にこの土地がどういう場所なのかを考えますね。

佐藤:
僕は生まれが山形で、高校卒業後10年間東京にいました。僕も志賀さん同様、外から来た意識は拭えないので、震災後も僕のローカリティをどう捉えたらいいかを考えているんですね。地域に対する問題意識もあって、それが映像作品に反映されている部分もあります。仕事のことだけでいえば、仙台の仕事より東京の仕事の方が多いですし、仕事としての映像制作は資本がないと難しいですから、映像の仕事は都市部のものなんだなというのはすごく感じます。今は、そういった商業的な表現とは別の表現のあり方に興味がありますね。

菊池:
僕は、大学進学のタイミングで岩手から仙台に来たので、それ以来拠点はずっと仙台なんですが、過去にインドネシアに住んだことが自分にとって大きな経験でした。インドネシアの建築物は、ずっと手が加え続けられているようなものが多く、完成しないんです。同じように完成していないガウディの建築のようなものは宗教的で象徴的だけれど、僕がいたジョグジャカルタの場合は、もう少しローカルなマインドからきているようで、自分たちの身の丈にあったものを必要に合わせて付け足しながら作り変えていく感じでした。コロナ禍が落ち着いたらまた海外でも生活をしたいですが、インドネシアのように、自らの手で自分たちの場所をケアし続けていく姿勢は、仙台にいても学ぶところがたくさんあるなと思います。

曲線とPUMPQUAKESがコラボレーションし、曲線開店1周年記念ポスターを制作。写真はこのプロジェクトで整備した曲線の裏庭で撮影したもの。(制作:曲線、PUMPQUAKES 写真:志賀理江子 デザイン:菊池聡太朗・佐藤貴宏)

曲線にて販売中。 https://kyoku-sen.com/items/5f69a0fe07e163296911e40f
曲線開店1周年記念ポスター裏面。曲線店主の菅原匠子さんによる、開店から一年間に扱ってきた本の中の心に残る一文が散りばめられている。

掲載:2021年7月9日

取材:2021年1月

企画・取材・構成 奥口文結(FOLKGLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業実施者に文化芸術活動や新型コロナウイルス感染症の影響等について伺ったものです。

当日は、身体的距離確保やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、取材を行いました。写真撮影時には、マスクを外して撮影している場合があります。

PUMPQUAKES パンプクエイクス
志賀理江子(写真家)、清水チナツ(インディペンデント・キュレーター)、長崎由幹(ロックカフェピーターパン後継、タコス愛好家、映像技術者)、佐藤貴宏(音響/ヴィジュアル/映像作家)、菊池聡太朗(建築家、美術家)からなる、宮城県を拠点としたインディペンデントな個人の集まり。作品制作、編集、キュレーションなど、ときどきに協働しながら、学びと表現をおこなっている。
団体名「PUMPQUAKES(パンプクエイクス)」は「PUMP(心臓・循環器・鼓動)」と「QUAKES(揺れ)」をあわせた造語。2011年3月11日の大地震をきっかけに出会ったメンバーからなるコレクティブで、個々の活動を持ち寄り学び合い、それらを循環させ、新たな揺れに変換していく試みを続けている。