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マスクの日常を切り取る
カメラマン・布田直志

インタビュー前編

カメラマン・布田直志さん

2020年4月。
全国に緊急事態宣言が発令され、これまでの生活を変えざるを得なくなり、
文化的な活動にも続々と変化が訪れています。

そんな中、フリーランスカメラマンとして仙台で活動する布田直志さんは、
“新しい生活様式”において象徴的な、「マスク」を着用した家族の姿をカメラに収めています。

インタビュー前半は、コロナ禍のカメラマンとしての活動と、
仙台の文化芸術活動に対する想いを伺います。

なぜ、マスクを着けた家族の写真を撮るようになったのでしょうか。

コロナウィルス感染拡大で、3月から子どもたちが登校できなくなり、自分の仕事もストップしたことで家族全員が24時間家にいるという状況になったんですね。はじめはいつも以上に楽しく濃密な時間を過ごしていたんですが、三男の小学校入学式が3回延期になり、学校に行きたい気持ちがいっぱいの我が子に、どう声を掛けて良いのか迷う日々を送っていました。そんな中、友人家族とメールや電話で、「緊急事態宣言が出たけど、どう?何やってるの?やっぱり家から出てないの?」みたいな話をしていて。
「これまで子どもたちは保育園や学校に通っていたのに、みんな家に居なくちゃいけなくて息が詰まってる。そっちはどう?」「うちも息詰まってるよ」って(笑)。
こんな状況だからこそ、SNSのやりとりではなく生の声を聞きたくなって、「じゃあ、そういう状況をちょっと写真撮らせてもらっていい?」と会話の流れから、みんなの家を渡り歩くようになったんです。併せて、道すがらに見かけた風景も一緒に撮っていきました。

撮影場所はどのように決めていましたか?

大体はそれぞれの自宅で撮っています。家に行ってから、まずは距離を取ることを大前提にして、「ここはどう?」みたいなやり取りをしながら撮影する位置を決めていきました。

この家族はマンションのエントランスで撮ったんですが、自動ドアが閉まっている状態で撮らせてもらいました。彼らは緊急事態宣言発令後、実際に人と全く会わずに家族3人で家に居たそうで、「久しぶりに人と会えて良い機会だった」と言っていました。

どのご家族の写真も、みなさん普段着で自然な印象です。

「おめかしはしないでね」って言っておいたんです(笑)。いつも通り、普段過ごしている格好で居てねって。

写真を撮ることを快諾してくれた仲良しのご家族。「彼はいつもボーダーの服を着てるんですよ。
奥様とお子さんが揃えてくれたんでしょうね」と布田さん

人を撮る時、表情を見ながらシャッターを切られていると思います。マスクで顔の大半が隠れているのにも関わらず、家族の和やかな雰囲気が伝わってきます。きっと、布田さんのコミュニケーションのなせる技なのでしょうね。

うちの奥さんが保育士なんですが、「マスクして子どもと接するってどんな感じなの?」って聞いたら、「子どもは0歳児でも5歳児でも、こっちが言いたいことをちゃんと読み取ってる。こっちがマスクしながらでも微笑みかければちゃんと伝わってるから大丈夫だよ」って。あぁ、それなら、マスクをした人の写真も良いんじゃないかって。

2020年9月時点で、20組の家族写真を撮られています。これらの写真を「いつもと違う日々」と題して載せているホームページ( https://sd.fudanaoshi.com/ )には、ご家族の構成や趣味も書かれているのがユニークです。

話のきっかけとして、普段聞かないことを聞いてみようと思って。例えば好きな作家とか。質問の中に、これまで行った一番遠い場所っていうのも入れているんですが、「そんな所まで行ったことがあるんだ」とかを知ることができて面白かったですね。

身体的に距離を取らなければならない時期ですが、布田さんは仲良しの方々とさらに心の距離を詰めた感じですね。

実際は、「この時期に勘弁してよ」という反応も多かったのですが、撮らせてくれた家族の中には、家族写真を撮ってもらったことがなかった方もいたので、素直に嬉しいという反応が多く、受け入れられた感じもありました。

11月には、ギャラリーチフリグリで写真展『いつもと違う日々』( https://chifuriguri.com )も開催されました。来場されたのはどのような方々でしたか。

告知期間が短く、ウェブサイトでしか宣伝していなかったので、ギャラリーや私のSNSを見て来られた方々が多かったです。年齢層は30〜40代が主でした。
反応は様々でしたが、「この緊急事態宣言中によく撮ってくれていた」という方が多かったです。写真を見ながら感染拡大初期に感じていたこと思い出して、こうだったよねと話す姿も見られました。

展示挨拶文の言葉には、「そこには初めての事に戸惑いながらも、それぞれ逞しく順応していく姿がありました」とあります。逞しく順応していく姿というのは、実際に撮影をしながら感じたことでしょうか。

そうですね。撮影に伺ってお話をする中で、「楽しみだったライブツアーも中止。今までは多くの人と関わって楽しんでいたのに、コロナで他人と接する機会がなくなった。でも、意外とそれでも満足する自分がいたんだよね」という話や、「生活がシンプルになった。今まではモノを買わされていた気がする」といった話を聞いたりして感じたことですね。

展示を終えた今、改めていかがでしょうか。

展示に足を運んでくださった方々と、現在の社会への思いや不安、これからの気持ちが共有できて、これからの撮影意欲に繋がりました。今後は、「家族」というくくりだけではなく、色々な方を撮れたらいいなと思っています。

写真のお仕事について伺います。コロナウィルス流行後、撮影の頻度は減りましたか?

減りましたね。基本的に自分は学校アルバムの撮影が仕事ですが、コロナ禍では学校行事そのものが無くなっているので、撮影頻度は減りました。その分、空いた時間で『いつもと違う日々』シリーズで写真を撮っているという感じです。

写真館が学校アルバムを作る時は複数の学校を受け持つんですが、学校行事は日が被ります。そういった時に自分みたいなフリーランスのカメラマンが出向いていくんです。

フリーランスのカメラマンとして働くにあたって、仙台はどんな環境ですか?

かなり乱暴な分け方になってなってしまいますが、作家として写真を撮る「写真家」と、写真撮影で食べている「職業カメラマン」、大きく分けて二通りあるとすると、仙台はある程度大きい街ではあるけれど、どちらかに振り切るのは難しいと感じます。どちらもとても格好良くて憧れなのですが、自分はどちらにもなれないなと感じます。

というのは、自分が一番やりたかったことは「子育て」だから。職業カメラマンに振り切ってしまうと、自分なら仕事に時間を割き過ぎて、家族の時間を持てなくなってしまいそうだし、写真家になるには、撮りたいものやスタイルが評価され、対価を頂けるようにならなければいけない。どちらも実現させている方々は本当に尊敬します。

一方で、「子育て」の観点からいくと、子どもを遊ばせるには仙台はとても良い環境です。中心部から川に行けるし、山にも登れるし、頑張れば自転車で海にも行けます。そんな素敵な環境で、まずはのびのびと子どもと過ごしたいというのが優先事項にありました。

写真をはじめ、関心がある仙台の文化芸術活動に対して思うこと、考えていること何でもお聞かせください。

(公財)仙台市市民文化事業団は、文化活動の一つとして演劇にも力を入れていますよね。自分も観劇することがありますが、客席を見渡すと大半は関係者……?って思うことがありました。いくら“劇都仙台”と謳っていても、もうちょっと演劇自体の裾野が広がらないとだめなのかな、と。

これは写真も同じで、写真展を開催すると、いかにも写真を撮っている感じの人だけが来る場合も多い。単純に人口の比率もありますが、東京では鑑賞者が圧倒的に多く、見る専門の人がいる。この層の人が仙台では少ないので悩ましいですね。それでも展示は面白い。自分もやりたいし、見にも行きます。

文化芸術活動へのハードルは、どうやったら低くできると思いますか。

文化的なものに興味を持てるくらいの余裕があることでしょうか。自分の生活やお金を得ることに精一杯だったりすると、気持ちが文化活動やアートに向かないですよね。もうちょっと余裕を持ってもいいんじゃない?とは思います。

金銭的な余裕だけではなく、心の余裕ですね。

はい。例えば宮城県美術館。県美のあり方が議論されていましたが、大多数の人は、小学生の頃に数回行ったきり、ということもあると思います。

自分の子どもたちには県美の創作室で遊ばせることが多かったけれど、意外とそういう場所があることを知らない方も多い。粘土遊びができるスペースとか、無料で利用できてあんなに楽しいのにもったいない!と思います。

子育て世代が文化活動やアートに興味を持てるようになると、仙台の文化芸術活動のハードルが下がりそうですね。そのためにも、文化活動やアートが楽しめる場所や機会の情報が得やすい仕組みづくりが必要なのかもしれません。

掲載日 2021年01月22日 取材月 2020年09月

布田 直志(ふだ なおし)

1973年仙台市生まれ。東京ビジュアルアーツ卒。
2002年よりフリーランスカメラマンとして仙台で活動開始。

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業実施者に文化芸術活動や新型コロナウイルス感染症の影響等について伺ったものです。

当日は、身体的距離確保やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、取材を行いました。写真撮影時には、マスクを外して撮影している場合があります。