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画家・浅野友理子インタビュー
デジタルに込めるアナログの手触り

インタビュー前編

画家・浅野友理子さん

コロナ禍で、クリエイティブの表現や発信方法が多様化しています。
仙台を拠点に活動する画家の浅野友理子さんは、手で生み出す絵の質感の温かさはそのままに、オンラインならではの表現も広げています。前編は、コロナ禍での画家としての活動を伺いました。

≪手製本へのこだわり≫

「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の採択事業で、植物をテーマにしたドローイング集を作成されました。なぜ、このような作品集を作られたのでしょうか。

支援事業に関わらず、以前から作品を載せた冊子を作ってみたいという気持ちがありました。はじめは、図鑑のように色々な植物を掲載する形を考えていたのですが、植物だけではなく、個人の記憶や印象的なエピソードも載せていくようなものにしようと思ったんです。

装丁は、デザイナーの伊藤裕さん、冊子に掲載している写真は、福岡在住のいわいあやさんに撮影していただきました。普段は絵画中心なのですが、今回は版画の作品を制作しました。版画自体は黒の1色刷りで、その他の色は筆で彩色しています。2020年に初めて木版画を制作したのですが、刷るほどに版木が表情を変えていくのが面白くて。その版木も写真で掲載しています。

さらに、今回の作品集は、紙にこだわって手製本で作ることにしました。使っている紙は、日本製紙の石巻工場の紙と、川崎町の笹谷峠にある「手すき和紙工房 潮紙」の和紙職人・塚原さんが作っている和紙を使っています。使っている和紙は、コウゾの皮が混ざった鶉(うずら)紙というもの。和紙職人からすると、仕上がりが美しくないために廃棄してしまうような和紙なのですが、塚原さんは、敢えてその粗さを味として活用していらっしゃるんです。

手製本で作られた『薬草をしたためる』

どんな植物が掲載されているのでしょうか。

手製本に載せている版画作品は、ドクダミ、ツチアケビ、トチバニンジン、ヤマユリ、ホウノキ、トチノミ、カキドオシ、マムシグサ、オトギリソウの9種類です。

トチバニンジンはふしにんじんとも呼ばれ、漢方などにも使われる品種。普段よく見かけるだいだい色の人参とは見た目が異なっています。カキドオシは、葉っぱを干してお茶にしたりするそうですが、山形の山沿いの地域では日常的に飲まれているようです。私の実家が多賀城にあるのですが、子どもの頃は山で採ってきて家の庭に植えたりしていました。

トロロアオイは粘り気があり、和紙を作る時に繊維をつなぎ合わせるために使われています。職人さんの工房裏の畑や、山形の上山市で栽培している方がいますが、作っている人が年々少なくなっているようです。トロロアオイの実は毛深くて食べられないけれど、黄色い花は食べられるんですよ。

トロロアオイ

昔話を聞いているようですね。今後の手製本の展開はどのようなものなのでしょうか。

今回は1冊のみの制作だったので、今後は複数冊作りたいです。その一つひとつを手製本で作ろうと思っています。

≪手ざわりをデジタルに落とし込む≫

自らの手を動かして絵を描く画家としての活動は、本来とてもアナログな手法です。コロナ禍で、これまでの表現方法の変化はありましたか?

本支援事業とは別に、多賀城市の「WEBアートワークショップ実施促進事業補助金」の採択を受けて、オンラインでかるたを作るワークショップを実施しました。

子どもの時以来、かるたで遊ぶ機会がなかなかありませんが、大人になって改めて見ると、かるたってとてもよくできている遊びだなと思います。

そうですよね。かるたって、絵があって言葉があって、遊んでいるうちに勉強になったりする。多賀城のワークショップでも、参加してくださる方自身の植物に関する思い出を、遊びながら共有できるようなものだと面白いなと思ったんです。

浅野さんが作られたかるたの札は、絵もことばも季節感がありますね。

読み札についても、私自身近所を歩いてまわりながら色々考えました。梅酒、せり、春に多賀城に生えるという猛毒のきのこ・カエンダケなど……。私が子どもの頃は、こんなのなかったなぁなんて思ったり。

ワークショップは、どのように進めていったのでしょうか。

まず、参加者の皆さんに、事前に何も描いていない札を郵送しました。ワークショップ当日はZoomで、参加者は5〜6歳の子どもから60代後半のおじいちゃんまで毎回7〜8人。お題は、「多賀城に自生する植物」、「思い出の植物」、春に家庭菜園や畑を始める人もいる時期だったので、「栽培している植物」の3つ。お題に合わせてそれぞれ発表してもらい、手元も動かす約1時間の内容でした。

誰も話してくれなくて気まずかったらどうしようと思っていたのですが、皆さん植物が好きでお喋りも好きな方ばかり。かるたは、文章だけでも絵だけでもどちらでも良いことにしていましたが、皆さんどちらも描いてくれました。

Zoomの画面上だと、描いているところを上から覗きこんだりすることができません。その辺りはどのようにしていましたか?

「見せてください」って言って、画面の前に絵を出してもらったりしていました。嫌な人は見せなくていいかなと思っていたけれど、皆さん見せてくれて嬉しかったですね。

お題に対して、印象的なエピソードはありましたか?

「思い出の植物」を挙げた30代の女性が、「給食でビワが出た時、種を持ち帰って植えたのが今大きくなっている」というエピソードを話してくれたのですが、同じようにビワの話をされた方が複数いましたね。

一人あたり50音分(50枚)のかるた札を作っていただくワークショップだったので、参加された方の札をお借りして、展示会で展示させていただいたりしました。会期中、植物好きのおじいちゃんが見にきてくれて、そこでもまた色々な情報をもらったりと、広がりがありました。

コロナ禍の影響はありましたか?

福島の猪苗代小学校の壁画の制作、山形ビエンナーレでの作品出展は、コロナ禍以前から参加が決まっていたのですが、それに絡んでオンラインでの配信が多くなり、自分が人前に出て喋る場が増えたのが以前と違うところですね。

2020年秋頃の猪苗代小学校の壁画制作は、PCR検査を受けて現地に泊まり、小学校に2週間くらい通って制作しました。

山形ビエンナーレでは、オンライン配信への切り替わりで、植物のイラストを使ったアニメーション作品を作りました。前々からやりたかったので、いいタイミングではありました。

アニメーションというのは?

絵を1点ずつ描き、映像作家の福原悠介さんに編集していただきました。映像の音は、サウンドデザイナーの菅原宏之さん。植物を採取するところや調理しているところなどの手の動きにもこだわりました。

線画が少しずつ変化するのが、浅野さんの絵の印象にぴったりです。

浅野友理子《薬草をしたためる ─トチノミ、マムシグサ、ツチアケビ─》

画家として活動するにあたって、仙台はどんな環境ですか?

自然という点においては、仙台の街中と比べると山形の方が豊かな印象はあります。もちろん、県域に行動範囲を広げれば、自然豊かなところはたくさんあると思います。
仙台に帰ってきて、目を向けるポイントが変わってきた感じがあります。仙台独自の文化や、この土地で色々なことを長く続けてこられた方もいるので、私自身は仙台での活動も楽しんでいます。

絵を描く活動をしている方との繋がりはありますか?

絵を描く方は、昔からの知り合いや山形にいた時のつながりが多いのですが、週に数回せんだいメディアテークに通っていることもあり、映像やデザイン、音楽や演劇など、自分と異なる領域の活動をしている人との交流が増えました。そういったつながりができるのは、仙台の環境ならではだと思います。

仙台朝市近くの仙台銀座の壁に絵を描く仕事では、界隈のお店の方にお話を聞いて新しく色々なことを知りました。麻雀屋さんのおばさんに話を聞いて、麻雀をはじめてみたくなったり(笑)。

画家として活動をしていますが、絵画作品単体で仕事を成り立たせてはいなくて、状況に合ったものをその都度考えていきたいと思っています。絵とデザイン、絵とアニメーションなど、何かと掛け合わせたお仕事ができるのはとても嬉しいので、今後も増えていったらいいですね。

絵画をはじめ、関心がある仙台の文化芸術活動に対して思うこと、考えていること何でもお聞かせください。

今回、手製本の制作で和紙職人の方と繋がりができたので、仙台の職人さんのことをもっと知りたいですね。個人でやっている方だと近くにいても知らなかったりするので、色々な方に出会ってみたいです。
活動するには、きっかけとつながりが必要。つながりの中でまた活動を広げていけたらなと思っています。

掲載日 2021年04月23日 取材月 2021年01月

浅野 友理子(あさの ゆりこ)

1990年宮城県生まれ。2015年 東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修士課程修了。食文化や植物の利用を切り口に様々な土地を訪ね、出会った人たちとのエピソードとともに、そこで受け継がれてきたものを記録するように描いている。

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業実施者に文化芸術活動や新型コロナウイルス感染症の影響等について伺ったものです。

当日は、身体的距離確保やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、取材を行いました。写真撮影時には、マスクを外して撮影している場合があります。