文字サイズ変更
色変更色変更

文化を支える裏方の奮闘
宮城舞台技術者協会

ファクトリーK株式会社 今野芳明さん

演劇、オペラ、バレエといった舞台芸術が、コロナ禍で公演の機会を奪われています。そういった舞台芸術を支える縁の下の力持ちである、舞台美術や照明、音響の仕事に携わる方々が結成したのが「宮城舞台技術者協会」です。
協会のメンバーであり、長年舞台美術に携わる、ファクトリーK株式会社の今野芳明さんに、コロナ禍で模索しながら奮闘する舞台芸術の仕事について伺いました。

≪舞台芸術の仕事とは≫

演劇、オペラ、バレエといった舞台芸術を支えている舞台美術や照明、音響の仕事。
縁の下の力持ちの仕事のひとつである舞台美術に携わってこられた今野さんは、いつ頃からこのお仕事をはじめられたのでしょうか。

現場で仕事をはじめたのは、20歳の時です。
昔は、舞台美術の仕事があるなんて全然知りませんでした。舞台は見るけれど、その裏方を商売としてやっているっていうのは実感がなくて。
実際に現場に行ってみると、「あ、これは仕事なんだな。面白いな」と思ったのは覚えています。

舞台芸術の現場でのお仕事は厳しい世界かと思います。

しょっちゅう怒鳴られていましたね。周りはいちいち教えてくれないので、周りを見ながら状況を察していく必要がありますし、覚えることはたくさんあります。

基本的に、芝居、バレエ、オペラの舞台は、まず舞台美術があり、それに対して照明のプランを作ります。照明の当て方ひとつ取っても、照明プランナーによって違いますし、時間軸の設定、例えば、どちらから朝日が入ってくる設定なのかまで気を遣う部分です。

大道具の仕事は、建築の一般的な技術を覚えなければなりません。
ただ、一般的な大工仕事のままではだめなんです。舞台を転換する時、大道具は軽くなければいけないので、見栄えとしては重そうに見えるけれど、裏を見ると軽い作りというようにしておかなければいけない。

大道具制作では、舞台の時代設定に合わせてエイジング加工をしていきます。新築の建物が舞台となる芝居ってあんまりないですよね? 生活感のある芝居の設定が多いので。加工には、こんなに絵の具を使う商売があるのかっていうくらい絵の具を使います。

そのほかにも、壁紙を貼ったり、パネルなどの平面に立体的に打ち付ける打物(うちもの)を打ったりと、全般的に作れないとできない仕事ですね。

舞台美術は、演出家の方が出された「今回はこういうセットでいきたい」というプランをこちらで図面化し、色なども含めて全部決めます。演出家によっては、大体の形や寸法を出してくれる方もいます。再演もので「前回はこんな風にしたので同じ様にしてください」といったパターンもあります。各パートにその道のプロフェッショナルが動いているのが、舞台芸術の現場です。

これまでで一番タフだったなと思う大道具のセットづくりはどんなものでしたか?

仙台オペラ協会さんの仕事です。デザイナーは別の方でしたが、うちに制作を頼んでくれました。自分の他の現場もあるので、そこも並行していかなければならず、連日夜中まで何かしら作業しているような感じでしたね。

ありとあらゆることが自分でできないと成り立たない仕事ですね。

東京から来た仕事だと、初見で図面を見せられて、軽い打ち合わせだけでその日のうちに本番というケースもあります。現場に慣れていない人だと戸惑うと思います。夕方ぐらいからプランに沿って実際に照明を当てていく「明かり合わせ」が始まってしまうので、ハードですよね。

公演期間中のメンテナンス作業もあるのでしょうか。

全国巡回のミュージカル公演が仙台に来た時も、ステージ前の張り出し部分をうちで担当させていただきました。あの時は、演者がステージ前に出て来るタイミングで、下のキャスターが正常に稼働するかをチェックするために、3週間に1度メンテナンスしたりもしました。

専用劇場だと常設できるものが、地方での移動公演だとその都度設置する必要がありますよね。

各会場によって、大きさなど毎回違いますからね。周辺はある程度調整できても、本舞台は決まっているものなので動かせません。

≪コロナ禍での状況≫

コロナ禍で、お仕事はどのような状況でしょうか。

ファクトリーK株式会社としては、2020年1月から2月上旬まで、山形〜広島の演劇のツアーの仕事に出ていたので、その時はあまり実感がありませんでした。
遠征だと公演につきっきりで公演期間が終わるまで帰ってこられません。この時は20日間休みなく、休みがあっても休みという名の移動でした。
例年、1〜2月はイベントや公演があまりありません。3月は、照明、音響、大道具の仕事は、東日本大震災の慰霊祭などに携わっている方が多いと思いますが、うちもそうです。

2020年4〜5月はいかがでしたか?

例年は、4月に荒吐ロックフェスティバル、5月は青葉まつりの仕事があります。2020年は全て中止でした。6月には長野の音楽フェスティバルにお邪魔していますが、それもなくなってしまいました。2月くらいからずっと公演がキャンセルの状況で、日々キャンセルを追いかけていた感じです。

舞台関係者の中にも、コロナ禍でも一生懸命何かやろうとしている人たちはいたんですが、劇場の方が使えない状況。東京から仙台に来る予定だった舞台は、前日まで粘っていたけれど、結局中止になってしまいました。

≪舞台技術者協会の立ち上げ≫

6月に、舞台芸術に携わる方々で、「舞台技術者協会」を立ち上げられました。協会のホームページでは(https://msea.info/)、舞台芸術に関わる情報も発信されています。立ち上げのきっかけを教えてください。

そもそもは、フリーランスで舞台業界の仕事をしている人たちから、「助成金の申請の仕方がわからない」、「面倒だからやらない」という声があったことから、後に協会メンバーとなる、有限会社ライティングケンの方が経理に詳しいということで、「もしわからなければ彼女に相談したらいいよ」と声がけをしたのが始まりでした。
そうしているうちに、「もっといろんな人に教えてあげたらいいんじゃない?」ということになって、ファクトリーK株式会社、有限会社ライティングケン、有限会社舞台監督工房が、舞台業界の方々に声をかけていって集まりはじめた感じでしたね。
協会には色々な業者が集まっていますが、本来であればお互いにライバルなので、これは本当に異例のことです。

1回目の集会は、2020年5月27日。最初は、集まってもみんな白けた顔をしていたのですが、打ち合わせを重ねていくうちに、「なんだか時間が足りないぞ」と思うくらい盛り上がって楽しくなってきて。
協会のメンバーで情報交換をしつつ、舞台芸術業界の人手不足解消にも役立てられたらいいなと考えています。

≪舞台と会場の感染対策の提案≫

夏には、宮城県と仙台市に要望書を提出されました。

協会メンバーや、音響系の会社の代表の方々と一緒に陳情しにいきました。
ファクトリーK(株)としては、主催者側に負担をかけないように、会場費の減免、各劇場の配信設備の整備などを提案しました。

会場費の減免について、例えば、楽屋のコロナ対策の人数制限の考え方は、基本的に客席と同じなので、15人入れる楽屋なら今は7人に制限がかかる。そうすると、70〜80人の団体ならどうやって楽屋使うの? という話になってくる。別で部屋を確保すると、そこでまたお金がかかってしまう……。だからこそ、会場だけではなく、楽屋などの舞台裏周りも減額してほしいというところにつながってくるんです。

また、各劇場でオンライン配信するためには、現状では、インターネット回線の配線工事をしなければいけないのでお金がかかります。もし、各施設側で回線や機材等の配信環境を一度整備してもらえれば、文化イベントだけでなく、例えば、学会などを主催する方々も助かるのではないか、と。

要望書の項目に入っていた「舞台衛生管理者認定制度の創設」とは?

各施設ごとに、それぞれで感染拡大防止のマニュアルがありますが、あちらの劇場で許可されたことがこちらの劇場では許可されなかったりと分かりづらい。各施設に舞台衛生管理者がいれば、その人を窓口にして色々なことを進めやすい。例えば、劇場の動線や換気システムのことをすぐ聞けます。感染対策グッズに関しても、各施設で用意があると助かりますね。

≪感染対策を体験する機会作り≫

2020年8月に2回、日立システムズホール仙台シアターホールで、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援」の助成事業として、「劇場へ行こう!コロナ時代のバックステージツアー」を実施されました。

感染症が怖くて公演がやりたくてもできない主催者の方々に、我々裏方なりに「こういう風にしたらできるんじゃないでしょうか」というのを提案したいと考えました。
かといって我々は医療の専門家でも何でもないので、文化芸術分野で一般的に言われている対策を体験していただき、医療の専門家の方にゲストにお越しいただいてトークセッションを通して学ぶ場という形で提案しました。

参加は事前予約制。イベント主催者側向けのイベントだったので、主に芝居、バレエ、ダンスなどを行う仙台市内、近隣県の方にお越しいただきました。
まずは、入り口から検温と除菌を体験。体温を測るデモ機をロビーに置いて見てもらいました。

我々舞台芸術者の客席のオペレーションも伝授しました。ステージから数えて2〜3列の座席は座れないようにして、その次の列から座席の両隣の席は空ける。次の列では人が座った真後ろには人を座らせないようにずらしていく配置です。

このように劇場の席を一つ飛ばしにした場合、「この席はあけて座ってください」という張り紙や案内は誰が用意するのかといった現実的な課題もあります。
会場キャパが1,500席だとしたら、「その半分の席の750枚をコピーするのは誰?」とか。当日、席に紙を貼る人、手すりを消毒する人、跳ね上げの椅子は手で持つから座面下も消毒しなければならないなど……。
「ぎりぎりで撤収終わってやっと帰れる!」と思っても、もうひと工程残っているとさらに時間がかかり、延滞料金が発生してしまっては主催者に気の毒ですしね。
感染症が怖いこと、費用が前よりもかかってしまうということ、付帯設備のコスト、色々な面において見学してもらえるといいなと思って企画しました。

すべての行動を見直さなければいけない、かなり厳しい状況ですね。

我々舞台芸術の仕事は、主催者ありき。主催者がやりたいということに対しては請け負うことができるのですが、我々が前に出てやりましょうというケースはほとんどありません。大道具主催で何かをやるって、前例がないですよね。

こうして、一つ一つ不安に対して具体的な対応策を洗い出していけば、公演ができそうという希望が持てますね。

今回のツアーの開催で、企画した自分たちが感染してしまったらまずいな、ということでだいぶ気を遣いました。
イベントが終わった後に、参加者からは「安心した」という声もあれば、「ここまでやらなきゃだめなんだ、と思って不安になった」という声もありました。あくまで我々のひとつの提案。もっと良い対策があるかもしれない。参加した人がどう解釈するかはそれぞれですよね。

ここまで様々なプロフェッショナルが集まったからこそのイベントでした。

みんなプロなので、イベントが終わってみると「仕事、良いよね!」みたいな(笑)。みんなほぼボランティアでしたが、それだけ、仕事がなくなっていたという現実でもあります。

≪未来の担い手づくりのために≫

今も、お仕事の状況は変わりませんか?

そうですね。夏場のお祭りもゼロ。たまに東京に大道具の仕事で声がかかることがありますが、仕事をしたいけれど感染が怖い、というジレンマがあります。

今後、宮城舞台技術者協会としてやりたいことはありますか?

協会メンバー間では、勉強会の話が挙がっています。建築だけではなく、照明や音響の分野でも、新しい機材やソフトの導入が進んでいます。設計ソフトをちゃんと使いこなせるようにするための勉強会とかですね。

また、様々な現場で、講習会を受けて免許取得をしなければ仕事ができなくなってきています。例えば、高いところに登るのにハーネスをつけなければいけないのですが、そのハーネスを使う時にも修了証明書が必要になりました。そういうことをみなさんと情報共有していく場にもしたいなと。

それから、舞台の仕事をやりたいという若い世代、主に中高生・専門学生・大学生に、実際の仕事ではこういうやり方をしているよ、ということを伝える機会を作りたいですね。

学校単位で演劇部・合唱部があったり、高校だとミュージカルをそれぞれのやり方でやっていたりしますが、実際に我々が色々な学校に赴いて、「わからないことがあったら一緒にやりませんか?」みたいな感じでできたらいいなと思います。

舞台美術では、そんなに高いものを買わなくても安い素材で作れるよ、というものがあります。実際の現場でも、予算がないけれどこういう風に見せたい、という要望は結構あったりします。
例えば、曇りガラス。ホームセンターで買える梱包材のプラ段を貼ると、本当に曇りガラスのように見える。重くないし、1枚1,800×900mmで1,000円くらい。こういう大道具を一緒に作るところからやったら面白そうですよね。

音響や照明に関しても、手順がわかるようなDVD教材を作ったりしても良いかなと考えています。

お話を伺っている最中、近所の小学生が訪ねて来ましたね。

あの子はほぼ毎日来ますね(笑)。事務所の隣の作業場は開けているので外から見えるんですが、そうすると子どもがどんどん友達を引き連れてきたりするんです(笑)。作っているものを見えるように置いておくと、通りがかりの親子が記念撮影して行ったり。興味がある人はいるんだなと感じますね。

舞台業界で仕事をしたくても、入り口がわからない若い人がたくさんいると思います。そういう人たちに、宮城舞台技術者協会に問い合わせすると良いよ、と言えるようになるのがいいですね。

そうですね。そこまでになれるといいですね。

掲載日 2021年07月16日 取材月 2021年01月

今野 芳明(こんの よしあき)

ファクトリーK株式会社 代表

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業実施者に文化芸術活動や新型コロナウイルス感染症の影響等について伺ったものです。

当日は、身体的距離確保やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、取材を行いました。写真撮影時には、マスクを外して撮影している場合があります。